この文章が2024年12月25日よりも前に公開されているということは、何かしらの手違いか、事故か、あるいはその他のっぴきならない事情によって予定されていた文章が出ず、代わりにこの文章が公開されたということを意味する。いわば出せる記事がなくなった時のジョーカーの役割を、この記事が担っているのだ。果たして今年はどうなるんだろうか。
杞憂はこれぐらいにしておいて、表題の通り、AnotherVision ARCADEの立ち上げとメインビジュアル制作過程について書く。早い話が、長い自分語りと回顧録である。回顧録といっても、3年前の話である。
2022年の大晦日に公開されたわかさぎの記事を併せて読んでいただければ、よりお楽しみいただけるかもしれない。https://avcc2022.hatenadiary.com/entry/2022/12/31/021526
AnotherVision ARCADEがどんなイベントだったかの詳細は割愛する。詳細は各々調べてほしい。ハッシュタグは #アナビアーケード。
と言いつつ、弊団体はここ数年大型イベントをやりすぎている節がある。ざっとここ数年の大型イベントを整理しておくと、2022年5月に秋葉原のアキバプラザ・アキバホールで開催されたのがAnotherVision ARCADE。2023年2月に秋葉原UDXギャラリーで開催されたのがNEXT。いわゆる10周年記念公演であった。そして直近、といっても半年以上前だが、2024年3月に池袋のサンシャイン会議室で開催されたのがAnotherVision Record。今回書くのはARCADEについてである。紫色と黄色のロゴのやつ。ダイスを積み上げた記憶とか、プリクラをとった記憶とか、謎のポケットティッシュを渡された記憶とかがあれば正解。
弊団体は制作の過程をあまり大っぴらには語らない。しかしAnotherVision ARCADEに関しては何かしらの形で共有財産にした方が良いと思ったので、この機会に書くことにした。当然文字数や機密事項等の関係から全てを書くわけには行かないので、途中端折った箇所は多分にある。ご容赦いただきたい。
企画が上がってきたのは2021年9月ごろだったと記憶している。そう、この企画、なんとコロナ禍で色々不自由していた中誕生し、そこから8か月程度で間に合わせている。言い出しっぺは同期のわかさぎ。
色々と壁打ちしながらこの企画の方向性を詰めていった。対外的な目標は「これからのAnotherVisionをアピールすること」、対内的な目標は「制作・運営のノウハウをなんとかして継承すること」の二つ。あとはコロナ禍で打てなかったさまざまなコンテンツを救済する側面もあった。実際、カイテテンセイやミッション・イン・ティッシュフルは、コロナ直前に始動し、しばらく我慢が続いたのちARCADEで晴れてお披露目となったコンテンツである。
企画の話が上がった時点で直感した。この企画はメインビジュアルの制作とイベント名の決定が肝要であり、かつ難しい、と。
フェス型のイベントを最後に行ったのは2018年のアナビフェス。当時は6期が新入生だった時代である。7期の大半はその時大学入試に向けて最後の追い込みをかけていた時期に相当する。年齢だけで言うなら、今の新入生である12期は中学1年生とか、それぐらいの年齢である。20年程度しか生きていない学生にとっては、遠い昔の話だ。
ARCADE時点での上級生は7期・8期がボリューム層、そして9期は新入生の代である。最後に行われたフェス型イベントの記憶は、この団体にはなかった。
となると、「どういうイベントにするのか」の共通認識を作っていくところが重要である。イベント名とメインビジュアルは、共通認識に直接作用する。真面目でビジネスライクな雰囲気のメインビジュアルを作ってしまうと真面目でビジネスライクなイベントになってしまう。ふざけすぎたイベント名をつければふざけすぎたイベントになってしまう。
しかも、普段の制作とは決定的に異なる点がある。それは中身が固まりきっていない、という点である。普通の制作であれば大謎や主軸となるコンセプトがすでに固まった状態で、それを画像化するかのごとくメインビジュアルを作り上げ、あるいはそのコンセプトを掬い上げる形でタイトルを決める。今回は逆である。大きなイベントに人を巻き込むために、イベント名を考え、イベントのメインビジュアルを作るところから着手した。並行でイベントの中身を詰めていく。
1人でこれを舵取りするのは無理だと判断したので、立ち上げメンバーを巻き込みながらデザインをした。イベントでイメージする雰囲気やキーワードをまず列挙してもらう。次に、そのイメージするキーワードを元にイメージ画像を検索して引っ張ってきてもらう。その中で特にイメージに近い画像に投票してみる。人気だった画像からキーワードを連想して列挙してもらう。新たに列挙したキーワードを元に新たなイメージ画像を検索して引っ張ってきてもらう。絞り込み。発散、収束、発散、収束。
いろんなキーワードが挙がった。面白い。ワイワイ。わちゃわちゃ。静かよりはうるさい。男性的でも女性的でもなく中性的。「しゃる」「しーば」しか知らない人たちに、今のAnotherVisionを見せたい。皆が集まる感じ。普段の公演とは違う何かであることを示したい。カラフル。熱い。大胆。
大事なのは、発散と収束に立ち上げメンバーを巻き込んでいること。一緒に同じ方向を向きながら、どんなイベントにしたいかを考え続けた。コロナ禍の影響がまだ残っていたので画面越しではあったが、それでも会議を重ね、認識をすり合わせていけば、このイベントが何を目指しているのか、何を成し遂げようとしているのかは伝わり、共鳴していく。
画像化とともに、キャッチコピーとイベント名の考案も進めていた。参考のために、ありとあらゆるそれっぽいタイトルやコピーを列挙していく。2021年末当時、東京ミステリーサーカスのコピーは、「世界一謎があるテーマパーク」らしい。株式会社SCRAPは当時「物語体験をお客様に提供する」会社だったそうだ。グリーンダイスは「おもしろさ最優先」、RIDDLERは「最高のひらめき体験を生み出し、考えることを誰もが好きになれる世界を作る」を主軸に置いている。なるほど、こうやって比べてみるだけでもかなりカラーが出る。2024年現在どうなっているかは、読者の皆さん自身で調べてみて欲しい。変わっているかもしれないし、変わっていないかもしれない。既存のフレーズに引っ張られすぎないように注意しながら、再び発散、収束。
このプロセスだけで2か月は費やしたと思う。並行していくつかの制作はすでに動き始めていたが、振り返ってみると少し時間を使いすぎた気もする。
大枠のイメージを共有したら、イベント名でそのイメージを形にするだけ。言うは易し、行うは難し。最終的に紆余曲折を経てAnotherVision ARCADEに落ち着いたわけだが、実は立ち上げメンバーにもっとも人気だったイベント名は異なるものだった。こちらについては、諸事情により伏せておく。
方向性を共有して、名前が決まったら、それを画像に落とし込んでいく。色を考える。フォントを考える。競合調査をする。この時期はタンブルウィードがIMMORTALを初演していた。RIDDLERの謎解きライブの1作目が11月頃だったか。となると、紺、黒、紅あたりを使いすぎるとぱっと見の印象での差別化ができなさそうだ。SCRAPのコンテンツがこの先どうなるかは分からないが、コラボ作品であればコラボ先のカラーが出てくる。オリジナル作品はどことなくコミカルな、絵本やマンガっぽい感じ。僕の想定と手癖からはだいぶ遠いので、被りは気にしなくてよいだろう。
タイムラインに流れてきた時に目に付く画像がいい。思わずスクロールする手を止めてしまうような、あるいは手を止めずとも脳裏に焼き付くような。それでいて、このメインビジュアルが内包するコンテンツの邪魔をしてはいけない。何かしら軸となるテーマを決めてしまうと、他のコンテンツがそれに完全に縛られてしまう。「お祭り」や「フェス」でさえも既存のイメージが先行してしまうため、可能なら避けたい。「よくわからないけどすごそうな何か」を目指すべきである。わかさぎからはサイバーパンク的な、紫やピンクのネオンのイメージというヒントをもらっていたが、「近未来」に寄りすぎてしまうとそれはそれでよくない。なぜなら、既存のAnotherVisionに紐づいてしまうから。うーん。
黄色。
真っ黄色。原色ベタ塗り。明度のコントラストのために黒を、そして色相のコントラストのために紫をいれよう。謎解きコンテンツのビジュアルで黄色と紫の組み合わせが使われた例は、すぐには思いつかなかった。存在したとしても、2021年末近辺で印象的なものは少ない。
エネルギッシュで大胆なイメージを出すために、いろんなフォントを組み合わせるのはどうだろうか。誘拐事件の犯人が新聞や雑誌を切り抜いて文章を作るように。いろんなコンテンツが雑多に集まり、そしていろんな人も雑多に集まり、熱量を持っていく、そんな表現ができるのではなかろうか。荒々しい感じも出しやすい。
しばらく手を動かして、出来上がったのがこれである。
荒い。粗い。そしてなにより、よくわからないけどなんかすごそう。具体的にどんなイベントなのかは全然わからないけど、とりあえず目にはつく。緻密に計算されたクオリティよりも、見切り発車上等と言わんばかりの勢いとパッションを感じさせる何かがある。
目指していたものが手元にあったし、その制作過程で立ち上げメンバーに思想を共有することができた。
あとは当日まで走り抜けて、歴史を刻むだけ。
振り返ってみれば粗はいくらでも見つかるものだ。デザインも、制作過程も、メンバーをまとめ上げるプロセスも、本職の人が見ればいくらでも修正できる箇所があるだろう。謎解きの最前線から離れた現在の僕でさえ、原色が強すぎるだとか、背景に対してロゴが平面的すぎるだとか、総合的にもうちょっとクオリティが欲しいだとか、いくらでも言えてしまうものだ。
でも、大型イベントの記憶を持たない学生団体の仕事ぶりとしては及第点だと思う。ビジュアルを作る過程を共有して、仲間と足並みをそろえて、小さくて大きな一歩をみんなで踏み出せたという事実だけでも、僕にとっては十分すぎるぐらいだった。
僕はあと数か月でAnotherVisionを去ることになる。居場所の詳細は省くが、エンタメからは遠く遠く離れた場所から、このウィットに富んだきらびやかな世界を眺めることになるだろう。時折「良い消費者」として姿を見せることはあるかもしれない。
これからも、そしてこれからのAnotherVisionをよろしくお願いします。学生団体と謎解きの文化が、もうしばらく続きますように。
7期 えっふぃ